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企業のニッチターゲットセグメント化と独禁法

こんばんは、河野です.
順調に1日おきの、エントリー.三日坊主にならなければいいんだけど.

今日はたまたま目にした日経BPでの 大前研一氏の文章が、私が以前考えてメモっていたテーマに似ていて尚且つ、意見が違うので書かせていただきます.

一言断りを入れさせていただきますが、私よりも長い人生経験があって、しかも世に認められている大前研一氏の意見なんだから 私よりもずっと深く、そして的確な意見なんだろうと思います.
また、独禁法については(このあと書くように)私自身の 理想論からはかけ離れたコンセプトの話であるので、タダでさえ興味の無い政策(お国)の話に拍車をかけて無知であることにお許しを願いたい.

 大前氏の話は、「国家を超えた独占・寡占産業が増えつつあるので、国家間でもそれを取り締まれるようにしなきゃ危ないよ」ということである.このテーマについて私が考えるポイントは、以下の通りである.

1.そもそも独占・寡占が目立つようになった背景には、
  それなりの意味・理由があるのではないか?
  (=ニッチ戦略を取らなければ生きていけないような市況なのでは無かろうか)

2.独占・寡占状態でも(大半が)正常に機能する条件も整いつつあるだろう

3(おまけ).国際枠での独禁法の検討は既に話題とされている


 
 
 
 
1)ニッチ戦略と独占の境界
 そもそもこの小見出しは、1年くらいずっと私のメモに掲示され続けていたアイデアテーマのひとつだ.すぐに気が付く話ではあるが、大前氏の指摘のように「世界規模での合併が続いている」のだろう.世界規模だけではない、国内だけ見てもM&A、TOBといった語句が新聞に並び続けるように、どこかの会社がどこかを買った なんて話は何も珍しくなくなった.しかも、これも当たり前の話ではあるが、全く関係の無い企業を買うなんてことはほとんど無く、ある程度既に持っている業務にシナジー効果のある企業と一緒になることが王道である.
 それとともに、差別化・付加価値化しなければ生きられないのも最近の企業の出す製品・サービスの特徴である.(もちろん、安さ一番で凡なものを作り続けることで儲けていく企業もある.ただそのコスト削減や、売りの手法に付いてもやはり他の企業では出来ないように工夫や改善をかける上では、目に見えないだけで差別化をしているのと同じことだと言えよう.)そして企業は、その特徴である部分を特徴づけ、維持するために 特許やブラックボックス化を使っている.

 さて、これらの行動はあまりにも当たり前の優秀な経営手法では無いだろうか?

 それに、大前氏は単純にミタル・スチールとアルセロールの業績状況を足して「こんなに大きくなる」、「こんなに利益が出る」と書いている(実際にそこまで単純な人じゃないだろうから、見せ掛けに解かりやすく書いているんだろうけど).現実の問題として、合併したからといってそのまま1+1が2になる合併などほとんど無い.もちろん1+1が3になる合併もあるが、1+1が1ままであることも(特に利益面)往往にして存在するのだ.例えば、最近合併した HDDメーカーのSeagateとmaxtorであるが、ここは合併してから初めての四半期決算が先月出た.それを見ても、あれだけ有利になると叫ばれた合併ではあるが、売り上げすら以前の足し算に満たない状況になっている.利益は、統合コストがあるのでしばらく足し算通りにいかないのは当然だとしても、また市況の状況を考えても、やはり立ち上がりが上手くいっているとは言えない.
 大体、彼の記事の中で何で「時価総額も売上高、営業利益、純利益、全てが会社の生産量に比例している」という記述になるのだろう.彼が挙げた比較グラフの中で、明らかに生産量に対して他の順位が、新日鉄もミタル・スチールも比例していないではないか.


2.独占・寡占でも不公正が成り立ちにくくなる
 という挙げ足は置いておくにしても、これだけ生産量の少ない新日鉄がこれだけの売り上げを挙げ、時価総額も高いというのは、キーポイントとして捉えなければならないだろう.もはや規模の経済だけで勝負できる時代では無いのだということを.これが、独占・寡占に対する一方的悪と決め付けることに疑問視する一つ目の理由である.

 二つ目は、これも大前氏の記事の中で既に書かれている.3トピック目「独占禁止法が無いと巨大企業はやりたい放題」の3段落目に、「日本の鉄鋼の価格はトヨタ自動車が決めているように・・・」という部分である.
 そう、トヨタ自動車が握っているのだ.彼がそのあとに例示した

「やがて鉄鋼の値段は中国が決める時代」
という話とは、明らかに違うということを指摘したい.トヨタ自動車は鉱石を掘って加工するようなことはしていない.明らかに鉄鋼業界のアウトサイダーであり、ステークホルダーなだけである.彼らから見ると鉄鋼企業は、ベンダーなのだ.ベンダー取引での売り手・買い手市場の変化については市況などある程度流動性があるもので、これは今回の話とは別の領域なので、これ以上言及しない.
 それと比較して、中国に鉄鉱石がたくさんあるから、鉄鋼業者がたくさんあるから、だからプライスコントロールされるんだ という話は、鉄鋼業者の中での話であって、業界インサイダーでの問題だ.全く話が違う.そして、ここにヒントがあると捉えている.
 そう、先ほどの例で直接その事業をやっているわけではないステークホルダーが、価格決定権を握る可能性がある ということは、それは独占・寡占が「監視されている」もしくは、「勝手なコントロールが許されなくなっている」わけだろう.ここに、独占・寡占が一方的な不公平をもたらすだけにはならない一つの例が出されているわけだ.
 それは監視という意味だけでなく、本質的には「一社・一業種だけではビジネスが成り立たない状況にある」という現在の世界的ビジネスの流れからも言えるだろう.モジュール化・水平分業などはまさにこれだ.一社で独占して、チップだけ、ダイオードだけを作り続けても、それを買って組み合わせるものが無ければ意味を成さない.一社だけではビジネスが成り立たない のは、いかにニッチに走って独占しようとしても、それほど上手く不公正な状況を作り出せなくなるということだ.

 三つ目は、「企業が成長せざるを得ない」という条件から言えることである.もしかすると、家族経営状態の小さな企業ならば、成長にストップをかけてでもその時の利益規模を維持することは許される.ただ、その規模は世の中に大きな影響を与えるほどのものではない.それほど大きな影響があるビジネスなら、きっとどこかに買収されるか、競合が参入してくるはずだからだ.例えば、iPodの裏面の鏡面加工であるが、あの技術はしばらくの間 日本の新潟・燕地区にある企業しか出来ない、といわれていた.しかし、最近の情報によれば(日経エレクトロニクスの7月31日号)、Foxconnが既にその技術を持ち受注を受けているとのことである.これがいい例だ.
 そう言えば、巷でいろいろ話題に上っている「Yahoo、Googleは独占企業でゾンビー」の話も、この例にすることができる.彼はエントリーの中ほどで、

「もし、ヤフオクが強欲でなかったとしたらーーーすなわち、「企業努力に見合った適正な利益」だけをサービス価格に乗せたとしたら、ビッダーズなどの、ライバル企業は、一瞬で消し飛び、草の根一本残らないほどの深刻な独占状態になりかねない。」
と書いているが、私は逆だと考えている.搾取価格は、逆に市場を作り出すと思うのだ.人間の感覚は思っているよりも敏感で流されやすく、情報は予想外の域まで行き届くものである.どんなに小さな規模であっても「ヤフオクよりも安いところがあるぞ!」という情報がひとたび飛び交えば、それに食いつく人間が出てくる.例えば、最近の家電量販店の価格競争だ.他店よりも1円でも安いところを求めて、人々は遠出する.KAKAKU.COMで調べる.それが結果的に交通費や時間のコストが掛かっていても、そう行動する人間が多いのは事実である.あれだけ安さで売るヤマダ電機でさえも、KAKAKU.COMに載っている最安値ショップに奪われている顧客は居るはずである. ネット上の話をしても、ヤフオクよりもイーオークションでの宿泊代の方が魅力的かもしれないのだ.(それだけに特化しているので、知っている人にとっては探しやすい.)
 さて、また別の角度から見てみよう.大企業が利益額を一定維持することに終始するかというと、その状況は今後一層難しくなるだろう.それは投資家・株主の声に応えて、更なる成長をどこかで実現しなければならないプレッシャーがあるからだ.(あ、ごめんなさい.実はこの辺の投資家・株主と企業の成長については勉強不足なので、一方的な感覚でしか書いてません.もっともしかしたら成長しなくても株主からプレッシャーのない業界・企業・仕組みだって存在するかもしれませんね.)

 という、以上3点の理由から 独占・寡占が存在したとしても、それほど不公正なことは一方的に実現しにくい状況が揃いつつあると考える.
 ちなみに補足としてではあるが、2点付け加えたい.一つ目は安易な意見であるが、ここ近年のCSR観点の流行から、モラルとして不公正な行動がやりにくくなっているだろうということ.二つ目は経験則からであるが、現在自分の関わっている業種で、競合企業間でかなり鋭い競争状態にあるにも拘らず、暗黙の了解でのパテント共有のようなものや、部品の供給・受注も発生している事例もあるため、同一産業間でも競争と協力が並存する可能性は多いに有りえる.


3.国際間での独禁法の検討(おまけ)
 この話を見ていて、「そういえば独禁法って 昔バイトさせてもらってたRIETIの同僚(同じボス{T澤さん}の元で働いていたが、10個も年上なので先輩か)が最近研究対象にしてたよな」と思って調べてみたのであるが、岩成・川越 他(2006)「国際カルテルに対するリニエンシー制度の国際協調問題」(PDF)として、国際間での独禁法制定の前に一歩現実的な、それが存在した時 各国の制度同士がどう影響するかということに付いて書かれている.(冒頭にも書いたが、私は基本的に政策については興味が無い.それがビジネスにどう影響してきてどう対応すべきかには現実的に考えられても、政策自体がどうこうはあまりにも自分がコントロールできなさ過ぎて、面白くないので・・・)


 以上、長々と述べてきたが 現実的には全ての不公正な取引や行いが無くなるような理想郷はありえないだろうし、だからと言って独占企業が皆 自らに取って有利なことしか考えない、というわけでもないはずだ.むしろ今後は小見出し2で述べたように多々の理由から、公正な動きをとる企業の方が増えてくる流れではあると思う.
 平均と正解は違う場所にあるが、徐々に平均は正解に向かって近づくようなベクトルを持っていると信じる.

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